小学三年生の頃同級生と二人で小さな冒険をした。
自転車に乗って川沿いのサイクリングロードをずーっとずーっと下っていった。
真っ直ぐ行くだけだから迷うこともない。
朝早く出発したので行き止まりに近くに午前十時頃付いた。
自転車を停めてあれが行き止まりかな?って話してたら土手の上で手招きしてるオジサンがいた。オイデオイデって。
なんだろうって近付いたら土方風のおそらく60歳過ぎのジイさんだった。
頭は白髪で白髪無精髭、歯は一本しか無い。
ボロいランニングシャツと作業服下にサンダル、一升瓶を抱えていた。
「僕たちサイクリングかい?今日はいい天気だものね」
人当たりが柔らかいオジイサンという印象だった。
「そう!サイクリングロードが無くなる場所まで冒険に来たんだ」
「ここで一度途切れるけど少し先にまたサイクリングロード出てくるんだよ」
「そうなの?ありがとうオジサン」
「君達は釣りをするの?この川にはいろんな魚がいるんだよ」
オジサン(オジイサン)は物知りに見えた。
鰻の釣り方、餌は虫で良い、その虫の取り方等知らない事を沢山教えてくれた。
「今度釣り竿持ってきなさい。オジサンが教えてあげるから」
と言った後ポケットから湯呑みを出して一升瓶から酒を注いでグイと一気に飲み干した。
「オジサン朝からお酒飲んじゃっていいの?」
「オジサンは仕事休みなんだ。だからいいんだよ」
そう言うとオジサンは深呼吸してこう言った
「僕たちは、人を殺した事があるかい?」
「ええ?人を殺す?ハハハある訳ないじゃない」
「オジサンはね。あるンだ」
オジサンの顔が見る見る赤くなった。
同級生が
「オジサン。戦争行ったの?」
「戦争は行ったけど直ぐ終戦になってね。戦争では人を殺してはないんだよ」
「なんだオジサンの嘘かぁハハハ」
オジサンは語気を強めた
「嘘じゃない!オジサンは気に入らない仕事仲間を刺したんだ。刺殺したんだ」
冗談だと思った。怖がる僕たちを面白がっているんだと思った。
「出刃包丁でね、あばら骨の下辺りから上に目掛けてね。ブスーって刺したんだ。」
声を大きくするオジサン。
目を見開いて口の端から泡が出ている。
「うわ~~~って声をあげられてね逃げようとしたから抑え込んでね。確実に死ぬようにグリグリグリグリって包丁をえぐってね」
オジサンは半分立上り身振り手振りで演じてる。
僕たちは動けなくなっていた。
「フシューーッフシューーッ(オジサンの呼吸)、包丁を抜いたらハァハァ(オジサンの呼吸が荒い)真っ赤な血がブシューーーって出てきてね俺の顔にかかったんだよ真っ赤に!真っ赤に!」
物凄く興奮して思い出しているようだった。
「気持ちよかった。気持ちよかったなぁ。またやりたい。また人を殺したい」
「お、オジサン。僕たち、もう行くね」
「お!そうか!気をつけてな!」
あっさり帰してくれた。
当時はオジサンが僕たちを怖がらせる冗談だろ?って思っていたけど、今思えばオジサンの尋常じゃない表情と興奮した様子からしてオジサンは若い頃に人を殺して服役していたんじゃないかと思えてきた。
殺人を繰り返す人って人を殺すことに快感を覚えるらしいけれどオジサンのあの恍惚の表情はとても演技じゃないと今は思える。
人を殺した事を自慢して、きっと勲章のように思ってたんだろうな。
過去に人を殺した事があって出所して一般人のフリをしている人がもし身近にいたとしたら僕は絶対に関わりを持たないだろう。更生しているなんて思えないんだ。