数年前の昼下りに繁華街を歩いていた時のこと、背後から
「ドロボー!」
という大きな声が聞こえた。
振り返ると深帽子にサングラスを掛けたいかにも怪しい男がバッグを抱えて走ってきた。
その後ろにバックの持ち主と思しきオバちゃんが見えた。
「捕まえてーーーー」
男とはまだ30メートルほど距離があったが咄嗟の事で足がすくんでしまった。
柔道の有段なんて糞の役にも立たなかった。
その時ドサッと音がして、目を向けると買い物袋が落ちていた。
そこには買い物したばかりであろうネギの束を、刀のように構えた爺さんが立っていた。
爺さん怪我するぞ!ボケてんのか!危ないよ!
と思った刹那、爺さんは凄まじいスピードの踏み込み(僕には一蹴りで5メートルくらい飛んだように見えた)で犯人に飛びつき
チョエエエエエエ!!!
という感じの掛け声を発して犯人の喉元に束ネギの先端(根のほう)を打ち込んだ。
ゲフ!!!という声が漏れたと思ったら犯人が三回転くらい後ろに転がって大の字に伸びた。
後はてんやわんやの大騒ぎで周囲の人間でなんとか取り押さえ警察に突き出せた。
立去ろうとするお爺さんを呼び止め
「あ、あの、ネギの中身は棒ですか?」
咄嗟に思った事を口にした
「え?いやまさか(笑)ほら、ネギは駄目になっちゃったよ(笑)」
「でも、ネギがアイツの喉に炸裂して倒したの見ました俺」
「うん。簡単な事だ。ネギが潰れる前に打ち抜けばいいんだよ」
究極のインパクトを使えば柔らかいものでも人さえ殺せるというのだろうか。